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種生物学会 - The Society for the Study of Species Biology

Last Updated on 27-07-2017

【報告】第7回片岡奨励賞受賞者からの研究紹介

第7回(2013年度)片岡奨励賞授賞者である久保田渉誠氏と山尾僚氏(五十音順)に、研究紹介をしていただきました。ますますのご活躍をお祈り申し上げます。

受賞理由の記事はこちら


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久保田 渉誠 氏

 この度は種生物学会片岡奨励賞をいただきまして,誠にありがとうございます。目標としている先輩方が受賞されてきた賞をいただき,大変嬉しく,光栄に思います。種生物学会には修士1年から参加していますが,シンポジウムでいただいた自身の研究に対するコメントや,ポスター賞,論文賞などは研究を続ける上での大きな励みとなりました。改めて種生物学会の皆様には深く御礼申し上げるとともに,今回の受賞も新たな糧として,より一層研究活動に励みたいと思います。

 私は学部4年から現在に至るまで,主にエンレイソウ科植物の研究に取り組んできました。一般的な知名度は高くない植物ですが,1930年代から数々の優秀な研究者によって研究が続けられ,今日まで多くの知見が蓄積されている系統群です。私はその中でも,オオバナノエンレイソウと呼ばれる植物が示す,多様な繁殖様式に魅せられ研究を続けてきました。オオバナノエンレイソウは両性花を顕花し,種内に他殖のみ行う自家不和合性(SI)集団と,主に自殖を行う自家和合性(SC)集団が独立して存在することが知られています。そこで,なぜ繁殖様式が種内で分化したのかを明らかにするべく,野外での受粉実験と集団遺伝学的解析から自殖と他殖の有利不利を総合的に評価しました。その結果,SC 集団における自殖に適応的意義は見当たらず,むしろ他殖に特化する戦略が有利であることが明らかになりました。これを裏付けるように,SC集団において雄蕊が矮小化した雌個体の存在を発見し,これらが他殖に特化した進化的戦略であることも示しました。さらに,分子系統樹解析,そして集団の地理的分布状況からもSC集団からSI集団が派生した可能性を示し,本種における自殖から他殖への進化を提唱しました。

 上記のような「なぜ進化が生じたのか」という疑問に焦点を当てた研究の他にも,「どのように進化が生じたのか」という疑問に迫る研究も発生遺伝学的な観点から展開しています。単子葉植物では外花被片からがく片への進化が複数の分類群で平行して生じています。そこで,多様な花器形態を進化させながらも共通して顕著ながく片を示すエンレイソウ科植物において,形態分化の分子遺伝学基盤の解明を目指しました。花器官形成に関与するMADS-box遺伝子群に着目し,遺伝子単離,発現解析,タンパク間相互作用,そしてモデル植物への遺伝子導入を行った結果,エンレイソウ科植物におけるがく片の形成は,他の単子葉植物で報告されている機構とは異なる遺伝子制御を受けていることが示されました。この結果は,エンレイソウ科植物における花器形態の多様化を理解する上でも重要な分子生物学的知見になると考えています。

 現在はエンレイソウから少し離れ,シロイヌナズナの近縁種であるハクサンハタザオを対象に,次世代シーケンサーから得られる情報からゲノム上に残された自然選択の痕跡を辿る研究を進めています。大小様々な地理的スケールでの集団比較に加え,100年前から採取された標本も利用することで,適応遺伝子の時空間動態を明らかにすることを目指す,先端的な研究に取り組んでいます。

 最後になりましたが,当初エンレイソウという名前すら知らなかった私を学部から博士課程に至るまで導いて下さった大原雅先生,分子生物学の経験が浅い異分野のポスドクを快く受け入れてくださった菅野明先生,そして最先端の研究に触れる機会を与えて下さった伊藤元己先生と森長真一さんをはじめ,共同研究者の方々,友人達には心より感謝申し上げます。これまで様々な研究手法を学ばせていただきましたが,自身の研究の原点は野外観察であり,恩師からいただいた「定規と天秤さえあればいくらでも面白い研究はできる」という研究理念は今でも大切にしているつもりです。手法に固執せず,野外で見つかる謎に躊躇なく取り組める研究者を目指し,これからも精進を続けて参ります。

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山尾 僚 氏

 この度は、種生物学会片岡奨励賞を受賞させていただきましたこと、大変光栄に存じます。これまで研究をご指導いただきました、岡山理科大学の波田善夫教授,田川純教授,佐賀大学の故鈴木信彦教授、九州大学の矢原一徹教授をはじめ、調査や実験のご指導・援助を頂いた研究室の諸先輩後輩の皆様、その他私を支えてくださった多くの方々に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

 私は、幼い頃から自然のなかで遊ぶことが大好きで、なかでも、動きの活発な昆虫や動物の行動に興味を持ち、親しんできました。しかし、昆虫や動物を観察する中で、彼らが植物からの影響を大きく受けていることを知り、彼らをより深く理解するためには、植物の生態についても知る必要があると感じるようになりました。こうして、私は、学部4年次の研究室配属で植物生態学の研究室に入り、卒業研究で植物の防御についての研究を始めました。

 研究対象として、私は、身近な植物であるアカメガシワ(トウダイグサ科)を選びました。アカメガシワと付き合い始めてまもなく、私は、これまで単に『動物の餌』という認識でしかなかった植物が、思いのほか、戦略的に生きている事実を知りました。アカメガシワは、大人しく食べられてばかりではなく、表面に毛や腺点(防御物質を含んだカプセル)を備え、物理・化学的に昆虫からの食害を防御していたのです。それだけでなく、花外蜜腺と食物体(脂質の塊)を用いてボディガードとしてアリ類を誘引し、食害する昆虫を排除してもらうことも分かりました。さらに、光合成能力の高い新葉は、物理・化学的防御でまもり、能力の低下した成熟葉では、生物的防御でまもるという、葉の齢(葉の価値)に応じて、これらの異なる防御を使い分けていることも分かりました。このような植物の巧みな防御戦略に夢中になった私は、修士課程、博士課程、と進学し、新たな研究を展開していきました。異なる地域から採集した個体群を比較したり、操作実験や化学分析などを駆使したりすることで、各防御形質の生産コストと防御機能を定量的に比較し、アカメガシワは、葉の価値に応じて物理・化学的防御から生物的防御へと、防御戦略を転換することで、新芽の確実な防御と迅速な成長を同時に可能にしていることを明らかにしました。

 博士課程も半ばを過ぎ、ようやくアカメガシワの防御戦略を理解できたと満足していた私は、あるとき、どうやら必ずしもアカメガシワは、葉齢に伴って防御戦略を変えるわけではないことに気がつきました。「アカメガシワには、まだ何か秘密が隠されているのか?」という期待。「これまでとったデータが間違っていたのか?」という不安。こうなったらもっと徹底的に観察するしか手はない!と腹をくくり、野外に生育するアカメガシワをまた一から観察し直すことにしました。ひたすら、約700株ものアカメガシワの各防御形質の発達具合を調べたり、実験的に各防御形質の植食者への効果を調べる日々。このような体当たり作戦により、私は、アリによる生物的防御が、やや暗く湿った林縁部や木が倒れた後のギャップなどの光を巡る競争が激しい環境に限られて機能しており、明るく乾燥している開放地では物理・化学的防御が、林縁部とギャップでは生物的防御が機能することが分かりました。さらに、栽培実験により、光や土壌養水分濃度に応じて防御を可塑的に変化させることも判明しました。それも、人為的に環境を変化させると、わずか2--3週間足らずで、防御形質の発達度合いを変えることが分かったのです。これまで、動物の食物としてしか植物を認識していなかった私にとって、植物が周囲の環境を認識して、その振る舞いをこんなにもダイナミックに変えているという事実は、衝撃的であり、私の植物に対する見方を一変しました。

 今後も、植物の高い環境認知能や"動き"を含む可塑性に着目して、植物を巡る様々な相互作用を明らかにする事で、自分を含めた人々の視点、ものの見方を大きく変えるような研究を展開し、生態系や生物の理解に大きく貢献できる研究を展開していきたいと考えています。本受賞を励みに、今後も精力的に研究に励んで行きたいと思います。

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