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種生物学会 - The Society for the Study of Species Biology

Last Updated on 05-04-2017

【報告】第8回片岡奨励賞受賞者からの研究紹介

第8回(2014年度)片岡奨励賞授賞者である岡本朋子さんに、研究紹介をしていただきました。ますますのご活躍をお祈り申し上げます。

受賞理由の記事はこちら


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岡本 朋子 氏

 この度は種生物学会片岡奨励賞をいただき、大変光栄に存じます。これまでに片岡奨励賞を受賞された方々は、真に優秀な方ばかりで、そこに私が名を連ねることは時期尚早ではないかと思う気持ちもありますが、今回の受賞を励みとし、今後はより厳しく気を引き締めて研究に邁進してまいりたいと思います。このような栄誉ある賞を受賞できたのは、大学院から現在に至るまでご指導下さった京都大学の加藤真先生、これまでの研究を通じて全面的に支えてくださった共同研究者の方々、学会やセミナーなどで貴重な意見を下さった多くの方々、そして常に知ることの面白さを教えてくれた植物と昆虫たちのおかげに他なりません。この場を借りて深謝申し上げます。
 私は幼い頃から昆虫や植物が大好きで...ということはなく、むしろ昆虫は得体の知れない怖い存在で、植物は食料もしくは緑色の物体でした。生態学関連の分野に身をおく研究者は、幼い頃から自然と深く関わり、興味をもってこられた方が多いように思いますが、私はその対極にありました。大学に進学した理由は生物学を学びたい、という理由でしたが、どちらかと言えば生命科学などミクロ分野への興味であり、生態学には無関心でした。しかし、植物が巧みな戦略を駆使し受粉を成し遂げていることを知ってからというもの、生き物たちの生態の多様さや奥深さに心が捉えられていき、野外で生き物に触れ対話することに夢中になりました。
 はじめに取り組んだのは1種対1種の密接な関係にあるカンコノキとハナホソガ送粉共生系を題材にした研究でした。カンコノキの仲間は、300種以上が生育していますが、それぞれが特定の1種のハナホソガとパートナーシップを結んでいます。私は、カンコノキがどのようにして特定の1種のハナホソガだけを花へ呼び寄せて花粉を運ばせているのか?という素朴な疑問を解明すべく、研究をはじめました。研究者としては未熟ながらも、花の形態や送粉昆虫の行動の観察を通じ、花から発せられる"匂い"が送粉者の誘引に重要であることを解明しました。この研究を発端として、送粉生態学の中でも特に「花の匂いの役割」に特に興味を持ち始め、化学分析技術を武器に研究を進めて行こうと考えました。その後、ジンチョウゲ科のガンピ属の植物を対象とした研究では、花の匂いを夜間にのみ放出することで多種の蛾類を花へ呼び寄せ受粉を達成していること、また、匂いだけでなく、花の形態や枝への付き方が蛾類に特化していることを示しました。さらに、ユキノシタ科のチャルメルソウ類を対象とした研究では特定の匂い物質が決まった送粉者を誘引し、不要な訪花者を排除することをつきとめました。
 数十から百を越える化学物質が様々な割合で混合して成る花の匂いは、特徴を捉えがたく扱いにくい形質ですが、送粉者との関わりを見ることで、その進化パターンも知ることができます。例えば、ハナホソガによって能動的に送粉される(ハナホソガが自ら雄花で花粉を集め、雌花へ運び授粉する)植物では、例外的に花の匂いが雌雄で異なる性的二型が進化してきたことが明らかになりました。また、チャルメルソウ類では、ライラックアルデヒドの生合成能が植物の系統関係に関わらず、送粉様式に対応して収斂進化してきたことも明らかになりました。
 現在では、植物と送粉昆虫の密接な関係性がなぜ生まれ、どのように維持されてきたのかについて注目し、研究を行っています。今後は、これまで培った化学分析などの技術を最大限に生かしながら、しかし基本は生物に向き合い教えてもらう気持ちを軸として、多くの方の好奇心をくすぐるような研究に取り組んでいきたいと考えています。

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