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種生物学会 - The Society for the Study of Species Biology

Last Updated on 22-11-2017

書評:日本産ハナバチ図鑑

日本産ハナバチ図鑑」 多田内修・村尾竜起編 文一総合出版

■人類にとって,ハナバチは生態系サービスをもたらす重要な存在である。近年,マルハナバチ国勢調査が実施されたり,世界規模でのミツバチの減少が報道されたりする中で,ハナバチ類に対する人々の関心は少しずつ高まっている。本書は,このような社会背景の中で満を持して発売されたハナバチ図鑑の決定版だ。研究者はもちろんのこと,あまりハナバチに詳しくない人でも種同定ができるよう,随所に様々な工夫が凝らされている。
 本書では,冒頭にハナバチの分類・生態・採集法についての概説と各形態部位の名称説明が記されており,その後に検索表とハナバチ各種の解説が科毎にまとめられている。分類や生態の概説には,ハナバチを研究する上で必要な基礎知識が凝縮されている。特に生態の概説では訪花性,営巣・育子,社会性についての基本情報が記述されている。例えば,真社会性のハナバチについて,一時的に半社会性が成立するものとしないものの違いが簡潔に書かれている。これらは平易な言葉遣いで書かれており,ハナバチ入門に最適である。
 採集法の概説では,いつ・どこで・どのようにすればハナバチを採集できるかが丁寧に記述されている。この部分は,特にこれからハナバチ研究を開始する新米研究者にとって必読だろう。研究材料を野外で探す際にはサーチイメージが重要である。ハナバチの生息環境や営巣場所の記述が散りばめられているこの概説はサーチイメージ形成に役立つに違いない。また,生態観察のできるトラップ等も紹介されており,自分でも試してみたくなる。
 各科の最初のページにある検索表は,採集し たハナバチを大まかに分類するのに非常に有用だろう。生態学的な研究では科や属レベルで解析を行うことも少なくない。検索表による分類は,こうした研究における同定作業の労力を大幅に軽減させてくれるに違いない。また,検索表はハナバチ初心者が種同定を試みる際にも不可欠なものであり,重宝されるだろう。私自身もハナバチに詳しいほうではないため,このような検索表の存在は非常にありがたい。
 各種の解説では,体長・発生期・分布・訪花植物とともに形態的特徴が詳細に記述されている。各形態部位の名称は難解だが,冒頭の説明頁とにらめっこしながら読み解くのはよい勉強になる。使用されている標本写真は高精細で非常に美しく,全種にわたって頭部・触角・交尾器等の拡大写真が豊富に掲載されている。これらの写真は,背面・側面写真だけではわからない種の同定ポイントを鮮明に示してくれる。特に注目すべきところには矢印があり,ハナバチ初心者でも同定ポイントが一目で把握できる親切なつくりになっている。一方で,種の生態に関する情報がほとんどないのが寂しいが,本書のコンセプトとして「同定」に重点が置かれていることを考慮すると,そこまで望むのは贅沢なのかもしれない。

(九州大学 中原 亨)

■野外に出て植物を観察していると,多種多様なハナバチがやってくる。マルハナバチのような大型のハナバチは比較的同定しやすいが,小型のハナバチに関しては,体サイズが微妙に違っていたり,腹部の毛の生え方や色,白い筋の入り方など様々な形態を持っていたりするので,「〜の仲間」程度の同定しかできなかった。これまでは,分厚い専門用語が記述されている図鑑しかなく,記載事項がハチのどの部位を指しているか分からないことも多かった。そのため,検索に非常に長い時間がかかった挙げ句,同定できないことがよくあった。しかし,本書には同定の指標となる形態部分の写真がふんだんに掲載されているので,顕微鏡下ですぐに分類形質を特定して,短時間で同定できることが一番の特徴である。
 これまで採集して標本にしていたが,同定できず「コハナバチの仲間」としていたものを用いて,実際に同定作業を行ってみた。同定の第一段階であるミツバチ科ハナバチ群の「科」までと各科から「属」までの検索表には,同定のポイントとなる翅や頭部などの特徴が拡大写真で示されている。分かりにくい部位については,矢印や丸などの記号で強調されているので,どの部位を示しているのかが一目で分かった。コハナバチの各種ごとのページにおいても,体長・発生期・分布・訪花植物・形態の特徴は,端的にポイントとなる部分が記載されている。特に,形態の特徴は5枚から8枚のカラー写真が多数掲載されており,顕微鏡で標本を拡大したときにすぐに対応がつくので,作業時間の短縮につながった。
 ハナバチの種類によっては,オスとメスの印象が全く違うものもあり,オスを捕まえてもどの種類か同定するのは難しいことも多い。 本書では,メスとオスがセットで掲載されている点は非常にわかりやすい。その一方,ところどころ,メスやオスが「未知」と記載されている種もあり,同定している標本がもしかしたらこの「未知」かもしれないと思うと,わくわくした気持ちになった。また,同定という作業のためだけでなく,ただページをめくっているだけで写真を楽しめて,ハナバチの多様性を感じられる点も本書の魅力であると感じた。本書は長年ハナバチを研究されてきた方々の成果の賜物であり,ハナバチをより身近に感じられるようになる一冊である。

(東京学芸大学大学院 木村真美子)


文一総合出版 『日本産ハナバチ図鑑』 多田内修・村尾竜起 編 (定価 12,960 円 )

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