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種生物学会 - The Society for the Study of Species Biology

Last Updated on 06-10-2017

【報告】第9回 種生物学会片岡奨励賞 選考結果

第9回 種生物学会片岡奨励賞

考報告

2015年11月5日

 選考委員会は,推薦のあった候補者の研究業績および種生物学会での活動について,慎重に調査審査し,最終選考会議を10月26日に行いました。その結果,選考委員の全員一致で,以下の2名に片岡奨励賞を授与することを決定いたしました。なお授賞式と受賞講演は,12月5日(土)の種生物学シンポジウム会場にて行います。

石崎智美(新潟大)

岩崎貴也(京都大)

片岡奨励賞選考委員: 

井鷺裕司・川北 篤・西脇亜也(委員長)・吉岡俊人


石崎智美氏の受賞理由

 石崎智美氏は、生物多様性の維持機構の一つである種間相互作用に着目し、野外における植物の被食防衛機構や生殖隔離機構を野外調査および遺伝解析によって明らかにしてきた。

 卒業研究「オクエゾサイシンとヒメギフチョウの共生関係」では、オクエゾサイシンを唯一の食草とするヒメギフチョウの幼虫がオクエゾサイシンの適応度に与える影響について調べ、食害が生じる前に資源獲得を行うことでオクエゾサイシンの種子繁殖や成長は食害の影響を受けず、両者の共存が可能であることを明らかにした。

 修士課程では「エンレイソウ属植物の雑種形成に関する生態遺伝学的研究」にとりくみ、オオバナノエンレイソウとミヤマエンレイソウの開花フェノロジーや自殖率の違いによって接合前隔離の強さが異なり、一方向性の雑種形成が起こることを明らかにした。

 そして、博士課程の研究では、現在の主たる研究に結びつく、北米に生育するヨモギ属の低木種 sagebrush (Artemisia tridentata) を対象種として、「植物個体間の匂いを介したコミュニケーション」に関する研究を行った。キク科の低木種セージブラッシの匂いを介した植物間コミュニケーションに関する研究では、野外集団における個体間の遺伝的関係を調べ、根茎の分岐によってクローン成長を行うこと、および、食害を受けた葉から放出される匂い成分がクローン個体間で類似することを明らかにした。さらに、近隣個体の匂いを受容した時に誘導される抵抗性の強さが、個体間の遺伝的近縁度の影響を受けることを明らかにし、植物間コミュニケーションがクローン個体や近縁個体に有利にはたらくことを明らかにした。

 石崎智美氏は、1つ1つのテーマを、丁寧に野外観察と遺伝解析を含めて研究を遂行し、その研究成果をPlant Species Biology(3編)にて公表している。また、種生物学会でも継続して成果発表を行っている。現在は,ナガバノイシモチソウを材料として補虫者が捕獲された際に,分泌される物質による研究も展開している。

 石崎智美氏は、現職の新潟大学の助教として採用され、現在は、結婚、出産をへて、育児をしながら、一生懸命、教育、研究に励んでいる。これまでの石崎智美氏の頑張りと功績は、女性研究者が多く所属する種生物学会にとっても、大きな宝であり、また若手女性研究者の良い目標になると思われる。


岩崎貴也氏の受賞理由

 岩崎貴也氏はこれまで、温帯林を構成する様々な植物種を対象とし、過去の氷期間氷期などの気候変動に対して植物がどのように応答してきたかに注目して、日本列島やその周辺地域での分子系統地理学的研究を行ってきた。その中で、遺伝子解析・集団遺伝学的解析・地理学的解析など、多岐にわたる手法を習熟し、温帯林を構成する多くの植物の分布変遷史について明らかにしてきた。

 まず、日本列島の温帯林構成樹種6種を対象にした分子系統地理学的研究では、広域分布する多くの種で共通して関東地方、日本海側地域、西日本という3地域間での遺伝的分化がみられることを示した。また、太平洋側において高頻度で分布する一部の樹種では、日本海側地域の遺伝的まとまりが存在せず、氷期には絶滅していた可能性が高いといった特殊な歴史についても示した。

 さらに、自身で遺伝解析を行った広域分布種4種のデータと、先行研究の4種のデータについて、地理情報システムを用いた地理学的な解析を行い、日本列島の温帯林には更に細かい遺伝的まとまりや重要な遺伝的境界が各地に存在していることを示した。これらの結果に基づく温帯林群集の分布変遷史は、従来の学説を覆す新しいものとして高い評価を受けており、第43回種生物学シンポジウムではポスター賞を受賞している。

 また、分布変遷の過程で取り残されたと思われるヒメコマツの絶滅危惧集団を対象とした保全遺伝学的研究では、遺伝構造や遺伝的多様性を明らかにするだけでなく、種子の自殖率と集団内の個体の分布パターンを地理学的に解析することで、極端に低密度化した個体分布の状況が、風媒の樹種であるヒメコマツであっても交配パターンに悪影響を及ぼしていることを示した。

 岩崎氏は現在、これまでと同様に気候変動と植物の地理的分布の間の関係を題材に、過去の気候変動とそれによる植物の分布変化はどのような適応進化を引き起こしたのか、また、将来の気候変動はどのような適応進化を引き起こすのかに注目して、適応遺伝子と野生植物の分布を結びつけるべく、研究を行っている。

 このように、常に新しい知見を持って、植物の分布という古くからの課題の中に存在する新しい課題の解明に取り組んでおり、彼は生物地理学、進化学、生態学などの分野において、今後、第一線で活躍する人材になると期待される。

種生物学会