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種生物学会 - The Society for the Study of Species Biology

Last Updated on 15-11-2017

チョウの訪花学習/香取郁夫(近畿大学農学部)


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種生物学会 電子版和文誌 第1巻1号 2016年3月

                     

   

チョウの訪花学習


   

 香取郁夫(近畿大学農学部)

   

     

 

 訪花昆虫が学習能力を発揮して訪花活動を営むことは、植物と昆虫の送粉共生系において、双方に利益をもたらす。まず昆虫は、見つけた花を手当たり次第に訪花(ランダム訪花)するよりも、蜜をたくさん提供している花を訪花学習によって覚え、その種の花を連続訪花(一貫訪花、定訪花)した方が採餌効率が上がる。一方植物は、昆虫が複数種の花をランダム訪花するよりも、訪花学習によって同種の花だけを一貫訪花してもらった方が花粉の無駄が少なくなり送粉効率が上がる。 訪花昆虫の中で、チョウはミツバチやマルハナバチなど真社会性ハナバチほどに学習能力はないだろうと長らく考えられてきた。しかし近年、チョウの訪花学習性に関しては多くの知見が集まり、チョウの訪花学習能力の真相が明らかになってきた。

 本講演では、チョウの訪花学習行動について演者らの行った研究を中心に紹介し、チョウの訪花学習性を他の訪花昆虫と比較する。

1.モンシロチョウのヒメジョオンに対する訪花学習

 野外アミ室において、モンシロチョウのヒメジョオンの花に対する訪花行動を観察した。その結果、チョウは訪花経験を積むに従い「ミス訪花」や「ミス探索」といった無駄な行動が減り、採餌の正確さが向上した(図 1, 2)。また、学習後に採餌効率が上昇したことを定量的に確かめることができた。

    

Fig1 ヒメジョン.jpg

図1.ヒメジョオンの花(頭花)の構造とミス探索の定義


    

Fig2 グラフ.jpg

図2.訪花経験に伴うミス探索数の推移
図中の異なる文字は上下の平均値間に有意差があることを示す(Scheff's F; P<0.05)

    

2.チョウの訪花学習速度の種間比較

 オオゴマダラ、ツマグロヒョウモン、モンシロチョウ、ベニシジミの4種について人工花を用いた訪花学習(色学習)実験を行った。その結果、すべての種はトレーニング時に報酬(吸蜜)経験を積むたびに、テストの時に報酬のあった花色に対して選好性を上昇させていった。つまり訪花学習した(図 3)。また、種間で 学習速度(選好性の上昇速度)に有意な差がみられ、大型で寿命の長い種ほど(具体的に、オオゴマダラやツマグロヒョウモンはモンシロチョウやベニシジミに比べ)学習速度が速かった、つまり学習能力が高かった。また雄より雌の方が学習能力が高かった。

   

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図3.4種のチョウの雌の学習曲線 

   

 3.訪花学習速度の目間比較

 ハチ目のクロマルハナバチ(社会性)とマイマイツツハナバチ(単独性)、ハエ目のホソヒラタアブ、ハナアブ、シマハナアブについても、2の実験とほぼ同一実験系で訪花学習性を調べ、その学習能力(速度)を比較した。その結果、花色の学習能力は、クロマルハナバチ > チョウ目4種 > マイマイツツハナバチとハエ目3種、の順となった(図4)。つまり、真社会性のマルハナバチが最も色学習能力が高かったが、それに続いてチョウの色学習能力が高く、単独性のハナバチ種やハエ目の各種がさらに続いた。

   

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  図4. 3目訪花昆虫の学習速度の比較

学習速度aの推定には学習曲線の一般的モデル式:
P=1-(1-P0)Exp(-aN)を用いた(P:その色の選択率、N:条件付け回数)

   

4.ジャコウアゲハの報酬学習と無報酬学習

 訪花学習には、条件付けの性質により、報酬(蜜など)のある花を覚えその花に対する選好性を上昇させる報酬学習、嫌な刺激(塩水など)のある花を覚えその花を忌避する(選好性を減少させる)罰学習、さらに報酬と罰のいずれも提供しない花を覚えて忌避する無報酬学習がある。ジャコウアゲハを用いた学習実験の結果、本種は報酬学習と無報酬学習を共に行えるが、無報酬学習には報酬学習よりも多くのトレーニングを要する(学習速度が遅い)ことが分かった(図5, 6)。

     

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図5.人工花を用いたジャコウアゲハの訪花学習実験の様子

     

Fig6.jpg図6.ジャコウアゲハの報酬学習と無報酬学習の速度比較

     

5.モンシロチョウの匂い学習、および色と匂いの2モード訪花学習

 近年、マルハナバチやスズメガが視覚と嗅覚の2モード情報を用い効率よく学習、採餌していることが示された。そこで今回モンシロチョウにも2モード学習が存在するかを調べた。その結果、このチョウには匂い学習が存在した(図 7)。

    

Fig7.jpg図7.匂いの異なる2種類の人工花に対する選択率の条件付け前後での変化
①(青+メチルヘプテノン)と②(青+フェニルアセトアルデヒド)のうち、①で報酬条件付けを行い、その前後のテストにおいて①と②を選ばせた時

     

 また2モードで異なる花間の識別学習は1モードのみで異なる花間の識別学習よりも学習速度が速かった(図8)。これはモンシロチョウが2モード情報を同時に学習することで、花の識別学習が加速し、より効率的な訪花採餌を実現できていることを意味する。

   
 Fig8.jpg

図8.報酬条件付けに用いた人工花(青+フェニルアセトアルデヒド)の訪花選択率の推移. 同じ人工花(青+フェニルアセトアルデヒド)で条件付けを行うが、テストにおいて選択させる2種の花が色のみで異なる場合(1モード相違グループ)と、色と匂いの両方で異なる場合(2モード相違グループ)を比較した。

     

     

参考文献

Kandori, I. and Yamaki, T. 2012. Reward and non-reward learning of flower colours in the butterfly Byasa alcinous (Lepidoptera: Papilionidae). Naturwissenschaften 99: 705-713. 

Kandori, I., Yamaki, T., Okuyama, S. 2009. Sakamoto, N. and Yokoi, T. Interspecific and intersexual learning rate differences in four butterfly species. Journal of Experimental Biology 212: 3810-3816.

Kandori, I. and Ohsaki, N. 1998. Effect of experience on foraging behavior towards artificial nectar guide in the cabbage butterfly, Pieris rapae crucivora (Lepidoptera : Pieridae). Applied Entomology and Zoology 33: 35-42.

Kandori, I. and Ohsaki, N. 1996. The learning abilities of the white cabbage butterfly, Pieris rapae, foraging for flowers. Researches on Population Ecology38: 111-117.



さらに興味のある方々への参考文献 <昆虫の学習に関するレビュー>

Dukas R. 2008. Evolutionary biology of insect learning. Annu Rev Entomol 53:145-160.

Leadbeater E. and Chittka L . 2007. Social learning in insects ― from miniature brains to consensus building. Current Biology 17: R703-R713.


    

第47回 種生物学シンポジウム

会期: 2015年12月4日(金) ~ 12月6日(日)

会場: かんぽの宿 岐阜羽島 (岐阜県羽島市桑原町午南1041) 

【12月6日(日)】  「 送粉者としてのチョウを考える 」 

   

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