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種生物学会 - The Society for the Study of Species Biology

Last Updated on 05-12-2018

【報告】 第12回片岡奨励賞受賞者からの研究紹介

第12回(2018年度)片岡奨励賞授賞者である坂田ゆずさんと中濱直之さんに研究紹介をしていただきました。ますますのご活躍をお祈り申し上げます。

受賞理由の記事はこちら

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坂田ゆず さん

 この度は種生物学会片岡奨励賞をいただきまして、大変嬉しく思い、身に余る思いです。これまで研究を通して支えて下さった皆様には心から深く御礼申し上げます。私は研究者としてはまだまだ駆け出しで未熟ではありますが、これを励みとして、今後より一層研究に精進してまいりたいと思います。

 私は、様々な生物の複雑なつながりや周囲の環境によって、生物の進化の進み方が絶えず変化していることに魅了され、これまで植物と昆虫の関係について研究をすすめてきました。特に、侵入年代や侵入場所といった侵入の歴史が分かっているが外来植物のセイタカアワダチソウに注目することで、どのような要因が引き金となって、どのような進化がどれくらいの時間スケールで起こるかについて明らかにしてきました。セイタカアワダチソウは、100年前に北米から日本に帰化した多年生草本で日米に広く分布しています。また、セイタカアワダチソウなどのキク科植物を食害する植食性昆虫であるアワダチソウグンバイが、同じく北米から2000年に日本に侵入しました。アワダチソウグンバイが、日本において定着してからの年数が地理的に異なっていることに着目し、全国から採集したセイタカアワダチソウを圃場で生育し、アワダチソウグンバイに対する抵抗性を測定したところ、日本においてアワダチソウグンバイが10年前に定着したセイタカアワダチソウの集団は、アワダチソウグンバイが定着していないセイタカアワダチソウの集団に比べて抵抗性が高まっていることが示されました。

 次に、原産地の北米と侵入地の日本のセイタカアワダチソウにおいて、地理的に広範囲な自然集団の調査により、日米両地域において年間平均気温が高く、グンバイ以外の植食者が少ないほどグンバイの密度が高いことが分かりました。また北米では、多様な分類群の植食性昆虫が見られた一方で、日本では植食性昆虫の種数は少ないものの、グンバイの密度が極めて高いことが分かりました。さらに、日本と北米のセイタカアワダチソウを日米両地域の圃場に生育することにより、日米両地域においてグンバイの密度が高い集団では、セイタカアワダチソウの抵抗性が高いことが示されました。これらの結果から、セイタカアワダチソウは日本に侵入することで、グンバイから解放され抵抗性が一旦は低下したが、侵入地で高密度のグンバイと再会することで短期間で再び上昇したという時間的な動態が見えてきました。また、日本では、北米に比べて気候条件が好適で、グンバイの競争者となる他の昆虫が少ないことにより、グンバイの密度が増加したことで選択圧が強まり、短期間の内にセイタカアワダチソウの抵抗性が進化したことが示唆されました。これは、日本と北米という異なる地域において同じ要因が、植物の昆虫に対する抵抗性の進化を駆動しており、これらの要因の新たな組み合わせが生じることで、原産地と違った植物--昆虫の相互作用が生み出され、植物の防御形質がわずか十数年の間に進化しうることを示していると考えられます。

 最近では、異なる植食者に対するセイタカアワダチソウの抵抗性の間にトレードオフがあり、その強さが日米で異なることが明らかになりつつあります。また現在では、植食者を介してセイタカアワダチソウが在来のキク科植物に与える影響が環境によってどのように異なるかについて取り組んでいます。

 私の最初の研究は、ナツエビネの送粉生態に周囲の蜜源植物が与える影響をシカ柵の中と外で調べることでした。その当時考えた仮説に反して、ニホンジカの採食によって下層植生が著しく衰退した環境では、シカ柵の中と外にかかわらず送粉者の訪花頻度も低く、結実率が低いことが分かりました。その後、複数の低木においても同様に下層植生の衰退が送粉者との相互作用を介して植物の繁殖に与える影響について継続して調べてきました。野外での生物の観察は、思いがけない発見があったり、時には自分の思い込みを正してくれたりなど研究をすすめていく上でかけがえのない時間となっています。これからも、自然と向き合う時間を大切にして、植物と昆虫や環境との複雑な関わり合いについての謎を追求し、新しい視点を持って研究をすすめていきたいと思っています。

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中濱直之 さん

 この度は第12回種生物学会片岡奨励賞をいただき、誠にありがとうございます。これまで受賞されてきた諸先輩方は私が目標としてきた方々ばかりですので、この度の受賞についてとても嬉しく、また光栄に思います。今後はその名に恥じぬよう、より一層精進する所存です。また受賞に際しまして、京都大学の井鷺裕司教授や東京大学の伊藤元己教授をはじめご指導・ご鞭撻くださいました多くの先生方、また共同研究者の皆様、さらには生物標本の貸出や絶滅危惧種の生育情報など、研究に際し惜しみないご協力をくださいました皆様に心から厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

 私は子供の頃から生物や自然が大好きで、時間があれば近所で昆虫採集に明け暮れていました。中高生のころは大阪市立自然史博物館や兵庫県立人と自然の博物館に頻繁に通い、また大学では京都大学野生生物研究会というサークルに所属して、多くの友人や先輩方から生物多様性の面白さや重要性について学んでまいりました。一方、里地里山生態系の劣化は依然として進んでおり、そうした状況に危機感を覚えていたのも、現在の保全生態学的研究を志すきっかけとなりました。

 これまで、近年急激に生物多様性が減少傾向にあります半自然草原に注目し、遺伝情報に着目した保全生態学的研究を実施いたしました。修士課程では、草原性絶滅危惧植物の繁殖成功と遺伝的多様性に草刈り時期が与える影響を研究しました。先行研究から、日本国内では年間2回程度の草刈りで高い草原性植物の多様性を維持できることが分かっていましたが、具体的な草刈りの時期については未解明でした。そこで、絶滅危惧植物の一種スズサイコについて、草刈り時期の異なる生育地で比較したところ、開花結実期である7-9月に草刈りをしていた場合は繁殖成功と遺伝的多様性が減少することが明らかとなりました。スズサイコと同様に夏から秋にかけて繁殖する草原性絶滅危惧植物は非常に多いことから、こうした植物の保全には、開花結実期を避けた草刈りが重要であることを示すことができました。

 修士課程の研究がひと段落した後、次に注目したのは生物標本の遺伝情報でした。もしも標本から遺伝解析ができれば、標本が採集された当時の情報を復元できます。絶滅危惧種の場合、これまでアプローチの難しかった減少以前の情報を利用できることから、非常に強力なツールとなります。しかしながら、標本は時間の経過とともにDNAが劣化することから遺伝解析が難しく、特に国内ではほとんど研究例がない状況でした。そこで、愛好家により多数の標本が作製され、また外部形態をほとんど破壊せずにDNAを利用できる昆虫 (特にチョウ類) 標本に注目しました。チョウ類の一種コヒョウモンモドキ (絶滅危惧IB類) とウスイロヒョウモンモドキ (絶滅危惧IA類) について、まずは標本からの遺伝解析手法の確立を目指しました。集団遺伝解析手法としてポピュラーなマイクロサテライト解析は、解析に必要な断片長の長さに関わらず、豊富な遺伝的多型を得ることができます。標本中の断片化したDNAにも対応できるように、必要な断片長を極端に短くした (100bp未満) ところ、30年前の標本のうちほとんどで解析を成功させることができました。本手法を用いて、1980年代以降の遺伝的多様性を推定したところ、両種ともに過去30年間で減少傾向にあることが分かりました。コヒョウモンモドキについては草原面積との関係性についても検討したところ、20世紀以降の草原面積の減少とともに、個体数や遺伝的多様性が減少傾向にありました。さらに両種とも、各生息地間の分断化や遺伝的浮動などにより、生息地間の遺伝的差異が過去20~30年間で増大していることも明らかになりました。一連の研究成果は、遺伝子汚染を起こさない保全単位の設定など、保全策の指針に有用である他、生物標本に遺伝資源としての価値を見出した重要な研究であるといえます。

 現在では、これまで実施してきた生物標本からの遺伝情報の利用の原点に立ち戻り、より安価かつ簡易に標本から遺伝情報を利用する方法、また長期間DNAを保持できる標本作成方法など、手法開発をメインに研究を実施しております。今後こうした標本からの遺伝情報の利用が一般的な研究手法として定着させるとともに、またこうした手法を用いて生物多様性の保全に貢献できるように研究を進めていきたいと思います。

種生物学会