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種生物学会 - The Society for the Study of Species Biology

Last Updated on 14-12-2019

【報告】 第13回片岡奨励賞受賞者からの研究紹介

第13回(2019年度)片岡奨励賞授賞者である廣田峻さんに研究紹介をしていただきました。ますますのご活躍をお祈り申し上げます。

受賞理由の記事はこちら

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 この度は、種生物学会片岡奨励賞をいただき、大変嬉しく光栄に存じます。今回の受賞を励みとし、今後はより一層研究に邁進せねばと意を新たにしました。学位研究を指導していただいた矢原徹一先生、ポスドクとして受け入れてくださった陶山佳久先生、安元暁子さん新田梢さんをはじめとする共同研究者や研究室、屋久島照葉樹林ネットワークのみなさまほか、これまで多くの方々に支えられてきました。この場をお借りして心から厚く御礼申し上げます。

 私は子供のころから自然が好きで、魚捕りやその飼育に没頭していました。中学・高校と生き物好きな先生方に恵まれ、土器川の魚類相調査やメダカの分布調査などに取り組む中で、生物多様性の面白さや重要性を知りました。このことが研究者を志す大きなきっかけになったのだと思います。

 研究室に配属されてからは、主にキスゲ属植物を用いて、花と花粉を運ぶ昆虫の相互作用を介した植物の種分化に関する研究に取り組んできました。キスゲ属植物のうち、主に昼行性のアゲハチョウ類に送粉されるハマカンゾウは朝咲いて夕方閉じるという昼咲きの開花形質を持ち、匂いのない赤い花をつけます。一方、夜行性スズメガに送粉されるキスゲは夕方咲いて翌朝閉じるという夜咲きの開花形質を持ち、甘い匂いのある黄色の花をつけます。2 種とも花の中心は紫外線を吸収し、周辺部は吸収する "UV bullseye pattern" をもつものの、ハマカンゾウと比較してキスゲでは周辺部における紫外線の反射率が高く、紫外線の反射・吸収のコントラストが高いという特徴があります。これらの花色や匂いといった対照的な花形質がどのようにして送粉者に選択されてきたか明らかにするために、ハマカンゾウとキスゲの F2 雑種世代を用いた野外実験集団を設置しました。F2 雑種世代では、匂いのない赤花・甘い匂いの黄花といった原種にみられる花形質の組み合わせが崩れ、匂いの強い赤花や匂いのない黄花といった特徴を持つ個体が出現します。そのため、F2 雑種世代を利用することで、花色と匂いが送粉者の誘引に果たす役割を区別して評価できるようになります。野生のアゲハチョウ・スズメガ、室内で羽化させた訪花経験のないアゲハチョウを用いた訪花観察の結果、アゲハチョウは赤花を一貫して選好するのに対し、スズメガは花色に対して日和見的にふるまうことが明らかになりました。さらに、アゲハチョウとスズメガ、それぞれの色覚に基づいて花色を評価したところ、アゲハチョウとスズメガどちらにとってもハマカンゾウよりもキスゲの UV bullseye pattern の方が花の中心・周辺部のコントラストが高く、模様が明瞭に見えることが示されました。このコントラストの違いに対し、アゲハチョウは有意な選好性を示しませんでしたが、スズメガはよりコントラストの高い bullseye pattern を選好する傾向が見られました。この結果から、アゲハチョウは花色自体、スズメガは花の模様という利用する視覚情報の違いが種分化を駆動したことが示唆されました。

 最近は対象をキスゲ属全体に広げ、次世代シークエンサーを活用した分子系統解析・集団構造解析を進めています。キスゲ属は受粉後隔離が発達しておらず、雑種集団の存在が報告されています。遺伝解析の結果でも種間で遺伝的交流が存在することが明らかになりました。現在、不完全な生殖隔離のもとどのように種分化が進んだのか、種差が維持されてきたのかに注目して研究を進めています。種分化は生物多様性の基礎となるメカニズムでありながら、まだまだ多くの謎が残されています。今後も花と昆虫をはじめとした生物間相互作用に注目しながら、生物多様性の維持機構を少しずつ明らかにしていきたいと考えています。

種生物学会