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種生物学会 - The Society for the Study of Species Biology

Last Updated on 05-11-2020

【報告】第14回片岡奨励賞受賞者からの研究紹介

第14回(2020年度)片岡奨励賞授賞者である村中智明さんに研究紹介をしていただきました。ますますのご活躍をお祈り申し上げます。

受賞理由の記事はこちら

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 このたび、片岡奨励賞のお知らせをいただき、大変うれしく、光栄に思うとともに、身の引き締まる思いです。また、学位取得後に種生物学会へ参加した新参者を暖かく迎えていただき、感謝しております。これまで指導いただいた小山時隆先生、近藤孝男先生、工藤洋先生には、自由な研究環境を提供いただき、要所要所で的確な助言をいただきました。改めて、いただいたものの大きさを実感しています。ありがとうございました。

 よくわからないけれど、生きているモノ。この複雑怪奇な存在を自分なりの言葉で理解したい、それが出発点であり今日の原動力でもあると思います。植物という、意思の疎通が難しそうな存在について考えることが、生物の本質へ近づく道だと感じ、植物学を選んだ気がします。光受容、光合成、細胞内輸送など、多くの選択肢がありましたが、時間情報を処理する概日時計に惹かれ、小山先生の研究室を選びました。

 概日時計は細胞内で生成される1日周期のリズムを使って、時間を計測します。植物細胞1つ1つがリズムを生み出すわけですが、これらのリズムが個体全体としてどう統合されるかは分かっていませんでした。ウキクサ植物を用いて、発光レポーターによるイメージング系を構築し、個体内の細胞リズムの測定を行いました。概日時計は、連続明といった定常条件でもリズムを刻みます。個々の細胞も連続明条件において明瞭なリズムを示しましたが、細胞間でリズム周期が異なり、周期自体も不安定なために、リズムの同期は維持されませんでした。連続明条件では、概日時計は個体内で統合されていないという結論になります。粘り強く解析した結果、近傍の細胞間ではリズムが少し同期することを発見し、細胞間での弱い相互作用の存在が示唆されました。さらに、明暗条件でも相互作用を示唆する空間パターンを観察できました。明暗条件では、各細胞の概日時計は、外環境に同期した上で、細胞間でも同期し、統合された時計として振る舞うようです。このような経緯で、明暗条件での時計をもっと知りたくなり、自然条件へと興味が移りはじめました。

 学位取得後は、近藤先生のもとで、シアノバクテリアのKaiタンパクの研究に1年ほど携わりました。Kaiタンパクは試験管の中でもATPがあれば24時間のリン酸化リズムを自律的に示す、驚異的なタンパクです。概日時計研究者としては、神に会ってきたようなものです。プロジェクトの最終年度での参加でしたが、タンパクが生み出す精緻なリズムと向き合えた1年でした。

 次に、工藤先生のプロジェクトに参加し、野外RNA-seqを担当しました。野外で昼夜を問わず2時間おきにサンプリングし、ラボでは多検体RNA-seqを行う3年間を過ごし、現在は、膨大なデータと取っ組み合っています。発現パターンが似た遺伝子を集めて、ヒートマップを描いていると、植物が考えていることが分かる気がしてきます。とはいえ、植物との意思疎通は、まだまだ遠そうです。

 今年度からは学振PDとして、鹿児島大に異動しました。受け入れ先の芝山道郎先生と神田英司先生には、分野の異なる私を寛大に迎えていただき、感謝しております。初心にもどりウキクサ植物を扱っていますが、対象種はイボウキクサからアオウキクサに変わりました。アオウキクサは全国の水田に生育し、冬の訪れの前に開花・結実し、種子で越冬します。短日植物であり、開花期は日長応答性で決定されます。全国からアオウキクサを集めたところ、限界日長に多様性があり、様々の水田環境に応じて開花期がシフトしているようです。さらに、限界日長と概日時計の周期には相関がありました。開花期シフトにおいて、概日時計が果たす役割がおぼろげなら見えてきており、楽しく研究しています。

 研究室での実験に明け暮れて学位を取得した私にとって、種生物学会のみなさまをはじめ、生態学分野の研究者との出会いは、視野が大きく広がるものでした。専門である時間生物学の知識を活かせるような、新しい研究も開始したいと考えています。その際はみなさまにご協力いただけると何よりも頼もしいです。これからもよろしくお願いいたします。

種生物学会