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種生物学会 - The Society for the Study of Species Biology

Last Updated on 05-04-2017

書評

種生物学会ポスター賞および河野昭一ポスター賞を受賞された方々による書評を掲載しています。

「大浦湾の生きものたち―琉球弧・生物多様性の重要地点、沖縄島大浦湾―」
「冬芽と環境-成長の多様な設計図-」
「日本のスゲ 増補改訂」
「日本産ハナバチ図鑑」

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「大浦湾の生きものたち―琉球弧・生物多様性の重要地点、沖縄島大浦湾―」
ダイビングチームすなっくスナフキン 編著
南方新社、定価 2,000円+税  ⇒出版社のページへ

■海の無い岐阜県に生まれた僕にとって、海は遠い存在だったけれど、この本を読んで海のことが身近になった。修士論文を書かないといけないのだが、今すぐこの本の舞台である沖縄の海へ潜りに行きたい。
大浦湾には、実に多様な生物種が生息している。大浦湾は、沖縄本島北部の名護市に位置し、沿岸部約10km、湾口部4kmの湾だ。この、決して広くは無い湾から5000種以上もの生物が報告され、うち262種は絶滅危惧種に指定されている。また、近年になって未記載種が次々と発見されるなど、非常に高い生態系が維持されている。そして、その多様な生物種を支えているのは、大浦湾を取り囲む多様な環境だ。大浦湾上流部の森や、マングローブ、干潟、そして海の中のサンゴ礁や、泥地、砂地など、それぞれの環境には、異なる生物種が暮らしている。この本は、大浦湾を取り囲む環境と、そこ住む生物を、非常に美しい写真とともに紹介した図鑑だ。
この図鑑には、126種のウミウシが載っている。そのどれも、色鮮やかで美しい。そして、とてもユニークな和名が付いている。黄色のゴツゴツしたウミウシは「パイナップルウミウシ」、白いまだら模様のウミウシは「シロボンボンウミウシ」、紫色のウミウシは「シンデレラウミウシ」など、和名を見ているだけで友達と盛り上がること間違いない。
一方、気持ち悪い生物も沢山載っている。特に、サンゴの写真が気持ち悪い。僕は、サンゴ礁を作るような、石みたいなサンゴしか知らなかった。この図鑑には、イソギンチャクのような触手を持ったサンゴが、お花畑のように海底を埋め尽くしている写真が載っている。思わず、ゾッとしてしまう景観で、地球のものとは思えない。しかも、その触手の部分は、引っ込んだり伸びたりするらしい。傍を泳いでいるときに、一斉に引っ込んだり、伸びたりしたら、すごく嫌だなと思った。また、同じ環境に、3mの巨大ナマコが暮らしている。蛇のように、体をグネグネさせて、海底に横たわっている。一度は見てみたいけれど、海で出会ったら、怖くなってしまいそうである。その他、この図鑑には、体に穴の開いたウニの仲間(スカシカシパン)や、腹を上にして逆さまに泳ぐ魚(アオギハゼ)や、人間の頭ほどある貝(トウカムリ)、干潟に現れるカニの大群(ミナミコメツキガニ)、不思議な生物が沢山紹介されている。
この本は、生物を現地で識別するための図鑑ではないが、大浦湾の生物に興味を持ってもらうためには、ぴったりの本だ。また、時折コラムや特集が挿入され、興味深い話が多く、とても楽しく読むことができた。日本にこんな場所があるのかと驚くと同時に、日本の生物相の豊かさを再確認することができた。本書を手にすれば、きっと大浦湾の海を、実際に覗いてみたいと思うはずだ。僕は登山が好きで、山登りばかりしていたけれど、来年は海で遊んでみたい。(第2回河野昭一ポスター賞受賞 森 脩祐)
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「冬芽と環境-成長の多様な設計図-」

八田洋章編
ISBN978-4-8326-0760-6
北隆館、定価:本体4,600円+税  ⇒出版社のページへ

■芽には、次に伸びだしてくる茎や葉、花などが未熟な状態でつまっている。本書のタイトルにもあげられている「冬芽」とは、寒さと乾燥の厳しさゆえに自身の成長に不適な冬に、植物が春に開く葉や花を待機させている器官であるといえる。固着性である植物は、いかに冬の冷え込みが厳しかろうと、常夏の南の島にバカンスに行くことはできない。そのために、植物はそれぞれの生育する環境に適応した、多様な越冬の戦略を進化させてきた。
 本書で取り扱われる内容は、編者が編集意図として述べている通り、冬芽そのものだけにとどまらない。冬芽の数や位置(頂芽・腋芽・不定芽)、構造(同規構造・異規構造)の違いは開葉様式(順次開葉・一斉開葉)と関連し、樹木全体の形状や成長戦略に影響を与える。4部から構成される本書の"冬芽とは何か"と題された第1部の前半では、上記のような冬芽の種類や構造に関する様々な用語を、豊富な写真やスケッチを交えながら解説している。後半部では、花芽形成の遺伝的制御機構や芽の形成過程にはじまり、冬芽の構造・枝葉の展開様式・樹木全体の成長リズムなどの多様な観点から、植物の成長戦略とそれぞれが適応した環境について、こちらも豊富な実例を用いて解説されている。また第1部の最終章では、冬芽の進化的な由来と関連するものとして、熱帯雨林において年に多回伸長する樹木の芽についても取り上げられている。
 さらに本書では、一般的にイメージされる"樹木の冬芽"から扱うテーマをさらに広げ、第2部"さまざまな植物の冬芽、越冬の姿"として、タケ類や、草本植物、水草、シダ植物、コケ類、藻類や菌類に至るまで、その越冬様式について紹介・考察を行っている。専門に扱う研究者でもない限り普段あまり意識することのない内容であるが、それゆえに、非常に多くの新しい発見や興味深い内容に溢れているといえる。第3部"冬芽の伸長と展開、その実証的研究"、第4部"フェノロジー調査の現場から"では、それぞれ第一線で活躍されている研究者の方々と、樹形研究会に所属されているアマチュアの観察者の方々による調査・研究の実例が紹介されている。実際のデータをもとにした考察や、今後どのような研究が必要になるのかなど、専門外の人間であっても、本書で学んだ内容が実際の研究にどうアプローチしていくのか、わかりやすく深い理解ができる構成となっている。
 本書は、タイトルの「冬芽と環境」にだけ注目して作られたものではなく、「冬芽と環境」をキーワードに、それに関連する植物の多様な構造や成長様式について、ミクロからマクロ、また様々な分類群にわたって幅広く注目した内容になっている。本書全体にわたり、野外での観察例、写真やスケッチをはじめとする丁寧な図表、発展的な学習を助ける参考文献の紹介が非常に豊富である。本書の多岐にわたる内容が「厳しい寒さ・乾燥に適応するための植物の多様な戦略」の結果であるという事実には、植物の知恵と進化の不思議を感じずにはいられない。本書によると、トチノキの冬芽は大きな芽鱗と蝋物質に包まれているという。本書を片手に街路樹等の身近な樹木の冬芽を観察するのは非常に興味深いであろう。寒さと乾燥が厳しければ、コートとマフラーに包まれて。(第2回河野昭一ポスター賞受賞 勝原光希)

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ネイチャーガイド 「日本のスゲ 増補改訂」

勝山輝男
ISBN 978-4-8299-8404-8
文一総合出版、定価5,500円+税  ⇒出版社のページへ

■生き物は、多様性に満ちている。色鮮やかなチョウの羽から、美しいヴァリエーションに富んだランの花、フィンチの嘴まで、生き物たちは一つの分類群の中でも驚くほど多様な姿を見せてくれる。こうした多様性こそが、古くから生き物が人々を惹きつけてやまない理由の一つであることは疑いないだろう。実際、分類学の父であるリンネも、進化学を築いたダーウィンも、こうした生き物たちの「違い」への興味から、生物学全体の礎となる発見へとつながったのである。
そうした華やかな多様性にあふれる自然界の中で、本書「日本のスゲ 増補改訂版」が扱うのは、一見地味で何の変哲もない植物、スゲ属である。ページをめくると、「同じような見た目」のスゲの写真が延々と並んでいる。実際、スゲの分類は難しいものらしい。植物好きの友人は「スゲだけは分からない」と頭を抱えていたし、オンラインの百科事典にもわざわざ「同定が困難なことで有名」との記述がある。
本書でも、そうした同定の問題に関して、苦労の跡が随所ににじむ。先行の報告や図鑑類の記載が誤りである可能性や、同種とされているものの地域間での形質の違いなどが、あちらこちらで指摘されている。しかし、本書の記述からは、困難であるからこそ、こうした分類の問題に対して真摯に向き合おうという姿勢が感じられる。種分類について議論があるものは、これまでの報告や最新の情報、有力な見方などが整理され、丁寧に記載されており、現在のスゲ属の分類の問題点がまとめられている。むろん、本書の前版にあたる2005年の「日本のスゲ」の出版以降の情報も大幅に加筆されている。新種や変種、再発見種など19種が新たに記載され、各種について10年間で得られた新たな知見も追記されている。
しかし、本書の真の魅力は、そうした「ややこしい分類群を整理した」点ではないように思う。じっくりと本書の写真を見比べていくと、最初は「同じような見た目」に感じたスゲたちが、驚くほどに多様性に満ち溢れていることに気づくだろう。全体の姿かたち、葉の色や太さ、小穂の長さや実の付き方、果実や種子の形など、どの種も個性がある姿をしていることが分かる。なぜ、同じような見た目なのに、これほどまでに多様に進化し、共存しているのか? 本書を見ていると、リンネやダーウィンも感じたであろうそんな疑問と感動を感じずにはいられない。ランやチョウのような華やかな多様性ではないが、むしろ地味であるからこそ、スゲ属の多様性は神秘であり、魅力を感じさせるのである。
こうした種ごとの細かな違いに気づけるのも、本書の豊富な美しい写真のおかげだ。全体像だけでなく、今回の改定で大幅に追加された花序や小穂の拡大写真が、丁寧な解説とともに記載されている。図鑑としての機能にも手落ちはない。本書ではスゲ属をいくつかの節に分けて解説しており、本書の巻頭では各節への検索表を、節の解説では各種への検索表が用意されており、できるだけ容易に種同定ができるよう、工夫がなされている。各ページはすっきりと読みやすい構成でありながら、特に形態的特徴に関して充実した解説が用意されている。各種の詳細な情報、そして先に述べた真摯な現段階で得られる最高の分類情報が詰まった本書は、日本におけるスゲ図鑑の決定版であるといえるものだろう。
普段は、目にしても注意を払うことの少ないスゲ。そんなスゲの見過ごしてきた意外な魅力を、本書を手に野外で改めて発見してみてはいかがだろうか。新たな生命の神秘と感動が広がることだろう。(第10回種生物学会ポスター賞受賞 伊藤公一)

■カヤツリグサ科スゲ属は、とても身近な植物であるが、目立つ花をつけないためか、どうしても見落としがちである。花序(小穂)をつけていても、似たような種類が多いため、これまで関心が薄かった者には同定は容易ではなく、取っ付きづらい印象があるかもしれない。しかし、幸いなことに、日本国内に限って言えば、本書を手にするだけでその全貌を概観できる。
 前作の「ネイチャーガイド 日本のスゲ」は、初めての日本産スゲ属全種の写真図鑑であり、分類・同定が難しいスゲ属の観察においては、革新的なものであった。本作は、その後に発表された新種など約20種類を追加し、最新の知見を盛り込んだものである。
 本文は、「この本の使い方と特長」から始まり、「スゲ属植物のからだのつくりと名称」、「節への検索表」、「節の特徴」、各節に含まれる種の解説と続いていく。「スゲ属植物のからだのつくりと名称」では、絵とカラー写真をふんだんに使うことで、一般的な被子植物とは異なる名称が用いられる部位が、植物体のどの部分に当たるのか、分かりやすく解説されている。また、生植物と乾燥標本ではどのような違いが生じるのかにも触れられており、一般の観察者だけでなく、専門家にとっても重要な情報が含まれている。これはスゲ属植物の研究を長年行ってきた著者ならではである。続く、「節への検索表」と「節の特徴」は、必要な情報が簡潔にまとまっており、スゲ属植物の同定に非常に有効である。一般に、同定の難しい植物を識別する際、図鑑のどの辺りを見れば良いのか途方にくれてしまう場合が多々ある。その点、この図鑑では、まず同定したい植物がどの節に当たるのかを、このパートで調べることができ、その後の種同定へとスムーズに進むことができる。ただし、スゲ属植物は小穂以外の特徴が少ないため、検索表は小穂がついている個体であることが前提となっている。各節に含まれる種の解説では、各種(一部の変種、亜種を含む)につき1〜2ページを割き、全体の写真と小穂のアップ写真など複数の美しい写真が添えられている。また、詳しい解説文の他に、果期、生育環境、国内分布、国外分布、環境省レッドリストの情報が掲載されている。さらに、それぞれの節の最初には、節内の種への検索表が掲載されており、節への検索表とあわせて活用できる。これらの検索表が掲載されていることから、本書は単なる写真図鑑ではなく、同定を念頭に置いた観察図鑑であるとも言えるだろう。このように、本書は、一般のスゲ初心者から専門家まで、幅広い人を対象としている。唯一の問題点は価格がやや高価(5500円+税)という点であるが、植物好きが1冊持っておいて損はない充実した内容である。(第10回種生物学会ポスター賞受賞 柿嶋 聡)

■カヤツリグサ科スゲ属は世界に約2000種が存在し、一つの属に含まれる種数が最も多い属である。種間で形態的特徴がほぼ共通しており、一般的に見分けることが難しいことで知られている属である。
本書は、10年前に刊行された日本初のスゲ属全種の写真図鑑の増補改訂版である。新種および新産種20種が追加され、解説も最新の情報に改められている。収録されているのは日本産のスゲ属植物の全種:269種、および主要な18変種・亜種とヒゲハリスゲを加えた288種である。本書の冒頭部分には、スゲ属植物のからだの作りと名称についての解説があり、ここでは、写真や図が多用されていて、スゲ属自体やその植物体の各部位について識別ポイントを交えつつ詳細な説明がなされている。本書は、種を識別する際に、検索表と写真による絵合わせの両方から目的の種に達することができるように作られている。形態の似た種ごとにまとめた節ごとで掲載されており、検索表は「節へ」と「種へ」の二段階になっている。メインの図鑑部分はページあたり1種が基本となっており、解説文とともに種の生育環境がわかるような全体像を写した写真に加え、種を識別する際に重要な部位である小穂や果胞・果実もしくは株の基部の写真が掲載されている。写真はどれも質感や色合いが伝わってくるものになっており、とくに小穂および果胞と果実の拡大写真はそれぞれの特徴が視覚的にわかりやすくなっている。
私自身、植生調査の際にスゲ属が出てきたときは、同定が難しくてスゲsp.としていたものだが、本書は持ち運びに不自由しないほどの大きさの図鑑であり、写真が多いので絵合わせもできることから野外での使用に重宝できる。小穂や果胞についてはもちろんのこと、それに加えて株の基部についての特徴についても詳細に記されていることから、小穂や果胞・果実がついていない植物体でも種を識別しやすくなることが考えられる。本書があれば、スゲ属の種を識別する時はとても心強いであろう。また、スゲを見分ける際には花や果実が重要であることは知っていたが、これらの形態が本書で見られるほど多様で変化に富んでいるとは思いもよらなかった。一般的な写真図鑑のように目で見て楽しむこともできる図鑑でもあるだろう。こことから、本書はスゲ種を識別するのに最も適した図鑑であるのはもちろんのこと、多種多様なスゲ属の世界に触れることができる図鑑だといえよう。(第10回種生物学会ポスター賞受賞 古川 沙央里)

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「日本産ハナバチ図鑑」 
多田内修・村尾竜起編 
文一総合出版、定価 12,960 円  ⇒出版社のページへ

■人類にとって,ハナバチは生態系サービスをもたらす重要な存在である。近年,マルハナバチ国勢調査が実施されたり,世界規模でのミツバチの減少が報道されたりする中で,ハナバチ類に対する人々の関心は少しずつ高まっている。本書は,このような社会背景の中で満を持して発売されたハナバチ図鑑の決定版だ。研究者はもちろんのこと,あまりハナバチに詳しくない人でも種同定ができるよう,随所に様々な工夫が凝らされている。
 本書では,冒頭にハナバチの分類・生態・採集法についての概説と各形態部位の名称説明が記されており,その後に検索表とハナバチ各種の解説が科毎にまとめられている。分類や生態の概説には,ハナバチを研究する上で必要な基礎知識が凝縮されている。特に生態の概説では訪花性,営巣・育子,社会性についての基本情報が記述されている。例えば,真社会性のハナバチについて,一時的に半社会性が成立するものとしないものの違いが簡潔に書かれている。これらは平易な言葉遣いで書かれており,ハナバチ入門に最適である。
 採集法の概説では,いつ・どこで・どのようにすればハナバチを採集できるかが丁寧に記述されている。この部分は,特にこれからハナバチ研究を開始する新米研究者にとって必読だろう。研究材料を野外で探す際にはサーチイメージが重要である。ハナバチの生息環境や営巣場所の記述が散りばめられているこの概説はサーチイメージ形成に役立つに違いない。また,生態観察のできるトラップ等も紹介されており,自分でも試してみたくなる。
 各科の最初のページにある検索表は,採集し たハナバチを大まかに分類するのに非常に有用だろう。生態学的な研究では科や属レベルで解析を行うことも少なくない。検索表による分類は,こうした研究における同定作業の労力を大幅に軽減させてくれるに違いない。また,検索表はハナバチ初心者が種同定を試みる際にも不可欠なものであり,重宝されるだろう。私自身もハナバチに詳しいほうではないため,このような検索表の存在は非常にありがたい。
 各種の解説では,体長・発生期・分布・訪花植物とともに形態的特徴が詳細に記述されている。各形態部位の名称は難解だが,冒頭の説明頁とにらめっこしながら読み解くのはよい勉強になる。使用されている標本写真は高精細で非常に美しく,全種にわたって頭部・触角・交尾器等の拡大写真が豊富に掲載されている。これらの写真は,背面・側面写真だけではわからない種の同定ポイントを鮮明に示してくれる。特に注目すべきところには矢印があり,ハナバチ初心者でも同定ポイントが一目で把握できる親切なつくりになっている。一方で,種の生態に関する情報がほとんどないのが寂しいが,本書のコンセプトとして「同定」に重点が置かれていることを考慮すると,そこまで望むのは贅沢なのかもしれない。(第9回種生物学会ポスター賞受賞 中原 亨)

■野外に出て植物を観察していると,多種多様なハナバチがやってくる。マルハナバチのような大型のハナバチは比較的同定しやすいが,小型のハナバチに関しては,体サイズが微妙に違っていたり,腹部の毛の生え方や色,白い筋の入り方など様々な形態を持っていたりするので,「〜の仲間」程度の同定しかできなかった。これまでは,分厚い専門用語が記述されている図鑑しかなく,記載事項がハチのどの部位を指しているか分からないことも多かった。そのため,検索に非常に長い時間がかかった挙げ句,同定できないことがよくあった。しかし,本書には同定の指標となる形態部分の写真がふんだんに掲載されているので,顕微鏡下ですぐに分類形質を特定して,短時間で同定できることが一番の特徴である。
 これまで採集して標本にしていたが,同定できず「コハナバチの仲間」としていたものを用いて,実際に同定作業を行ってみた。同定の第一段階であるミツバチ科ハナバチ群の「科」までと各科から「属」までの検索表には,同定のポイントとなる翅や頭部などの特徴が拡大写真で示されている。分かりにくい部位については,矢印や丸などの記号で強調されているので,どの部位を示しているのかが一目で分かった。コハナバチの各種ごとのページにおいても,体長・発生期・分布・訪花植物・形態の特徴は,端的にポイントとなる部分が記載されている。特に,形態の特徴は5枚から8枚のカラー写真が多数掲載されており,顕微鏡で標本を拡大したときにすぐに対応がつくので,作業時間の短縮につながった。
 ハナバチの種類によっては,オスとメスの印象が全く違うものもあり,オスを捕まえてもどの種類か同定するのは難しいことも多い。 本書では,メスとオスがセットで掲載されている点は非常にわかりやすい。その一方,ところどころ,メスやオスが「未知」と記載されている種もあり,同定している標本がもしかしたらこの「未知」かもしれないと思うと,わくわくした気持ちになった。また,同定という作業のためだけでなく,ただページをめくっているだけで写真を楽しめて,ハナバチの多様性を感じられる点も本書の魅力であると感じた。本書は長年ハナバチを研究されてきた方々の成果の賜物であり,ハナバチをより身近に感じられるようになる一冊である。(第1回河野昭一ポスター賞受賞 木村真美子)
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