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【連絡】第5回 種生物学会片岡奨励賞 選考報告

新着情報 2011年11月08日

 選考委員会は,推薦のあった候補者の研究業績および種生物学会での活動について,慎重に調査審査し,最終選考会議を10月19日に京都大学でおこないました。その結果,選考委員の全員一致で,以下の2 名に片岡奨励賞を授与することを決定いたしました(表記は五十音順)。なお授賞式は,12月10日(土)の種生物学会2011年度懇親会にて行います。


     ・角川(谷田辺)洋子 (東京大学)
     ・亀山慶晃 (東京農業大学)


片岡奨励賞選考委員: 井鷺裕司・川窪伸光(委員長)・西脇亜也・吉岡俊人


【受賞理由】

角川(谷田辺)洋子 氏 (東京大学)
 角川氏は,主にシダ植物を材料として種分化,特に生殖的隔離の進化に関する研究を行ってきた。特に,形態が単純で広域分布するシマオオタニワタリ類の研究では,rbcL遺伝子の塩基配列の多型を用いて隠蔽種群の生殖隔離を解析した。その際,異なるrbcLタイプ間でどのような生殖隔離がみられるかを明らかにするために,rbcLの塩基配列が大きく異なるシマオオタニワタリ類を人工交配させ,その結果を,同じrbcLタイプ同士の交配結果と比較することによって,隔離程度の強さを定量化した。そして同群では,遺伝的分化の程度ともに生殖的隔離も強くなることを明らかにした。このような,互いに生殖的隔離があって生物学的には別種であるが,形態では識別するのが困難な隠蔽種についての研究成果は,種分化の新たな実態を明らかにした点で学術的に高く評価できる。また角川氏の,人工交配実験を地道に繰り返しつつ,丹念に自然の実態に迫る研究姿勢は,種生物学的な研究としても素晴らしい。種生物学会では,シンポジウムの企画・講演を積極的に行い活発な学会活動を展開し,広く種生物学分野全体の発展に貢献している。

亀山慶晃 氏 (東京農業大学)
 亀山氏は,野生植物個体群の遺伝的構造,系統地理的背景,そして雑種形成の実態を,繁殖特性や送粉特性に注目して,長期間・広範囲の野外調査と,膨大かつ綿密な遺伝解析によって明らかにしてきた。ホンシャクナゲの野生個体群における遺伝子流動の研究では,マイクロサテライト用いて,花粉散布による遺伝子流動と個体群の遺伝構造の関係を明らかした。また,水生植物であるタヌキモなどの系統地理学的な研究では,全国の湖沼を丹念に調査し,地域個体群間で有性繁殖と無性繁殖への依存度の差異を発見し,集団内・集団間の遺伝的分化を解析した。さらに高山植物であるエゾノツガザクラとアオノツガザクラの雑種形成に関する研究では,両種のF1雑種が栄養成長により広面積に渡って維持され,親種の受粉成功がマルハナバチの季節的活性に反応していることを明らかにした。これらの亀山氏の植物生活史特性を丹念に追求する研究アプローチはまさに種生物学であり,その成果は高く評価できる。種生物学会では,シンポジウム講演をはじめ,「Plant Species Biology」および「種生物学研究」にて積極的に研究成果を発表し,種生物学的分野の学術的発展に貢献している。