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【報告】第8回 種生物学会片岡奨励賞 選考報告

新着情報 2014年11月21日

8回 種生物学会片岡奨励賞 選考報告

20141120

 選考委員会は,推薦のあった候補者の研究業績および種生物学会での活動について,慎重に調査審査し,最終選考会議を1016日に行いました。その結果,選考委員の全員一致で,以下の1名に片岡奨励賞を授与することを決定いたしました。なお授賞式は,126日(土)の種生物学会2014年度懇親会にて行います。

岡本 朋子 (森林総合研究所)

片岡奨励賞選考委員: 井鷺裕司・川北 ・西脇亜也(委員長)・吉岡俊人

受賞理由

 岡本氏は,これまで様々な植物と送粉昆虫の共生系を対象に,植物がいかにして花粉を運ぶ昆虫を呼び寄せるかに注目して,国内から国外まで広域的に研究を行ってきた。また,化学分析・行動実験・野外観察・系統遺伝学解析など,多岐にわたる手法を習熟し,花の匂いの生態学的役割や進化パターンについて明らかにしてきた。
 まず,ジンチョウゲ科ガンピ属植物を対象にした研究では,夜間に多くのガ類によって花粉が運ばれ,それら送粉者の誘引に花の匂い物質が重要であることを示した。この研究成果は,2009年度の種生物学会論文賞を受賞している。
 また同様に夜間に花粉が運ばれるカンコノキ属植物を対象にした研究では,近縁な植物が同所的に生育する場合でも,異なる花の匂いを放出することで特定の送粉者を誘引できることを実験的に示し,花の匂いの違いが近縁種間の生殖隔離として重要であることを明らかにした。
 さらに,カンコノキ属とその他コミカンソウ科の植物を用いることで,送粉者が示す特殊な授粉行動が,花の匂いの性的二型をもたらすことを示し,花の匂いの進化および多様化パターンに重要な知見をもたらした。
 そして,ユキノシタ科チャルメルソウ属植物を対象にした研究では,特定の匂い物質の存在が,花を訪れる昆虫相を決めることをつきとめ,植物の種分化に関わる可能性の高い化学物質の発見に至った。
 これらの研究成果は,植物の繁殖や進化を理解する上で非常に重要な知見であり,一部はすでに生態学,植物学,昆虫学といった多様な分野の国際誌に発表し,さらに計7つの賞を受賞している。
 岡本氏は現在,これまでと同様に植物と送粉昆虫の共生関係を題材に,種特異的な植物と送粉昆虫の関係がどのようなメカニズムによって種分化をするのか,また,植物と昆虫の種特異的な関係がなぜ生まれるのかに注目して研究を行っている。このように,耐えず新しい知見を持って,植物と送粉者の相互作用の実態や,その維持機構の解明に取り組んでおり,彼女は,生態学,進化学,行動学などの分野において,今後,第一線で活躍する人材になると期待される。