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【書評】大浦湾の生きものたち-琉球弧・生物多様性の重要地点、沖縄島大浦湾-

新着情報 2016年01月18日

大浦湾の生きものたち―琉球弧・生物多様性の重要地点、沖縄島大浦湾―
南方新社 ダイビングチームすなっくスナフキン 編著
A5判並製 128ページ オールカラー、定価 2,000円(税込2,160円)

■海の無い岐阜県に生まれた僕にとって、海は遠い存在だったけれど、この本を読んで海のことが身近になった。修士論文を書かないといけないのだが、今すぐこの本の舞台である沖縄の海へ潜りに行きたい。
大浦湾には、実に多様な生物種が生息している。大浦湾は、沖縄本島北部の名護市に位置し、沿岸部約10km、湾口部4kmの湾だ。この、決して広くは無い湾から5000種以上もの生物が報告され、うち262種は絶滅危惧種に指定されている。また、近年になって未記載種が次々と発見されるなど、非常に高い生態系が維持されている。そして、その多様な生物種を支えているのは、大浦湾を取り囲む多様な環境だ。大浦湾上流部の森や、マングローブ、干潟、そして海の中のサンゴ礁や、泥地、砂地など、それぞれの環境には、異なる生物種が暮らしている。この本は、大浦湾を取り囲む環境と、そこ住む生物を、非常に美しい写真とともに紹介した図鑑だ。
この図鑑には、126種のウミウシが載っている。そのどれも、色鮮やかで美しい。そして、とてもユニークな和名が付いている。黄色のゴツゴツしたウミウシは「パイナップルウミウシ」、白いまだら模様のウミウシは「シロボンボンウミウシ」、紫色のウミウシは「シンデレラウミウシ」など、和名を見ているだけで友達と盛り上がること間違いない。
一方、気持ち悪い生物も沢山載っている。特に、サンゴの写真が気持ち悪い。僕は、サンゴ礁を作るような、石みたいなサンゴしか知らなかった。この図鑑には、イソギンチャクのような触手を持ったサンゴが、お花畑のように海底を埋め尽くしている写真が載っている。思わず、ゾッとしてしまう景観で、地球のものとは思えない。しかも、その触手の部分は、引っ込んだり伸びたりするらしい。傍を泳いでいるときに、一斉に引っ込んだり、伸びたりしたら、すごく嫌だなと思った。また、同じ環境に、3mの巨大ナマコが暮らしている。蛇のように、体をグネグネさせて、海底に横たわっている。一度は見てみたいけれど、海で出会ったら、怖くなってしまいそうである。その他、この図鑑には、体に穴の開いたウニの仲間(スカシカシパン)や、腹を上にして逆さまに泳ぐ魚(アオギハゼ)や、人間の頭ほどある貝(トウカムリ)、干潟に現れるカニの大群(ミナミコメツキガニ)、不思議な生物が沢山紹介されている。
この本は、生物を現地で識別するための図鑑ではないが、大浦湾の生物に興味を持ってもらうためには、ぴったりの本だ。また、時折コラムや特集が挿入され、興味深い話が多く、とても楽しく読むことができた。日本にこんな場所があるのかと驚くと同時に、日本の生物相の豊かさを再確認することができた。本書を手にすれば、きっと大浦湾の海を、実際に覗いてみたいと思うはずだ。僕は登山が好きで、山登りばかりしていたけれど、来年は海で遊んでみたい。(森 脩祐)