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【報告】第11回片岡奨励賞受賞者からの研究紹介

新着情報 2018年04月14日

第11回(2017年度)片岡奨励賞授賞者である渡邊謙太さんに、研究紹介をしていただきました。ますますのご活躍をお祈り申し上げます。

受賞理由の記事はこちら

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 この度は第11回種生物学会片岡奨励賞を頂き、身に余る光栄です。歴代の片岡奨励賞受賞者の方々の名前を見ますといずれも大変優秀な研究者で、現在も第一線でご活躍されている方ばかりですので、とてもうれしく思うとともに、身の引き締まる思いです。ここまで研究を続けることができたのは、恩師である首都大学東京牧野標本館の菅原敬先生を始め、都立大学在学時代の教員、先輩、学友、その後の研究を支えてくださった多くの共同研究者の方々、また研究する環境を与えてくださった現在の職場の方々、そして家族のおかげです。心から感謝申し上げます。今回の受賞をこれからもっと面白い研究するようにとの叱咤激励と受け止めて、精進したいと思います。

 私は他の多くの方々と違い、小さい頃から生き物が好きな少年ではありませんでした。大学に入ってから生物学に魅せられ、勉強を始めたのですが、それだけに生物の進化や生態の不思議を知るたびに大きな感動を経験しました。実際に研究をはじめてから強く感じたことは、自然の中には、いつも心躍る発見が隠れているということです。フィールドに出れば、予想外の発見をしない日はありませんでした。いつも自分が立てた予想を裏切る現象が見つかります。自分のちっぽけな想像を遥かに超えたものが、自然にはある。それをもっと知りたい、という思いが私を支えてきたように思います。

 これまで私は主に島における植物の性表現(雌雄性)と繁殖、そしてその進化について研究してきました。その中でも特に異型花柱性の植物が島でどのように繁殖しているのか、あるいはどの様に他の性表現に進化していったのかということに興味を持って研究を進めてきました。そのきっかけとなったのは、修士過程に進学し、小笠原諸島で研究テーマを探索していた際に遭遇した植物の性表現に関するいくつかの新発見でした。その発見とは、いずれも単型の両性花のみをつけると考えられていたムニンネズミモチの二型性、ムニンアオガンピの雌雄異株性、オガサワラボチョウジとオオシラタマカズラの二型花柱性、そしてムニンハナガサノキの雄性両全性異株性でした。このときの発見の喜びと驚きが忘れられず、研究のフィールドを琉球列島、台湾、ハワイ諸島へと広げてきました。この過程で、琉球列島のボチョウジが二型花柱性から雌雄異株化したこと、ナガミボチョウジは雌雄異花同株を含む雑居性という複雑な性表現であること、ハワイのボチョウジ属は二型花柱性が一旦崩壊してから再び雌雄異株化したらしいこと等が明らかになってきました。これからは、より多くの島々における二型花柱性から始まる性表現の多様化、またそれに関連した種分化についての研究を進めたいと考えています。

 これからも、生き物をもっとよく知りたい、自分の予想を超えた自然の面白さにワクワク・ドキドキしたい、そしてその喜びを多くの方々と共有したいと考えています。そしてこのワクワクを次世代とも共有できるよう、かけがえのない自然をすこしでも健全な状態で未来に残せるようにと願っています。