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第16回片岡奨励賞受賞者からの研究紹介

お知らせ 2023年08月01日

第16回(2022年度)片岡奨励賞授賞者である中臺 亮介さんにに研究紹介をしていただきました。ますますのご活躍をお祈りします。

受賞理由の記事はこちら

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中臺 亮介さん

この度は第16回種生物学会片岡奨励賞をいただき、大変光栄に思います。これまで研究を通して支えて下さった皆様には心から御礼を申し上げます。

 過去の受賞者の研究紹介を拝見すると、幼い頃から生きものが"好き"であったと書かれている方が多いように思いますが、私はどうであったかと考えるとぱっと答えることが難しいです。生きものの名前にはほとんど興味が無かった(今でも覚えられない)一方で、植木鉢の下のダンゴムシを集め、通学路のオシロイバナやドングリの種を拾ってくるようなことを良くしていた記憶があります。私と生きものの関係は、いわゆる生きもの好きの"好き"とは違ったかも知れませんが、日常に存在する多様な生きもののことがいつも気になっていました。

 研究者を志したのはなぜかという理由は私の中では明白で、高校時代の恩師の影響であります。名前を出して良いかわからないので、匿名のままに恩師と書かせていただきますが、いわゆる在野の研究者でいろいろな生きものの話を聞く中で、そんなに楽しそうに話すような研究なるものをやりたくなったというのが、当時の気持ちです。特に高校時代にはクスノキの葉脈の付け根にできるダニ室なる器官の話を知り、植物とそれを取り巻く生きものの相互作用や多様性に興味を持ちました。

私が本格的に研究を開始した卒業研究から学位取得以前には、カエデ属植物とそれを利用する植食性昆虫(特にハマキホソガ属蛾類)とさらに上位栄養段階の内部寄生性昆虫の研究を中心に取り組んできました。東京大学の秩父演習林や京都大学の芦生研究林に通い詰めることや、採集のため日本中あちこちを行脚し、楽しくも大変だった記憶があります。その中でカエデ属植物とハマキホソガ属蛾類の関係を様々な側面から研究に取り組みました。

多くの野外調査をする中で自分だけでデータを取って研究するというアプローチでできる空間的なスケールの限界を感じ、学位取得後は既存の大規模データや文献からのデータ収集を組み合わせて、個人での調査や研究が難しい長期間や大規模な生物多様性パターンの研究を実施していました。特に日本産蝶類の既存の分布と食草の大規模データを用いた研究や毎木調査のデータを用いた研究について、複数の研究を実施してきました。

 また、最近では人間が生きものとどう認識し、どう関わるのかということにも興味を持ち取り組んでいます。具体的には、人間社会が樹木個体をどのように認識し、相互作用をするのかに興味を持ち、環境省の巨樹・巨木林データベースを用いた研究を行いました。その結果、人間が巨樹に名前を付けることや信仰の対象とすることなどの人間から見た巨樹との関係が、巨樹の樹齢や大きさ、そして、その背後にある様々な気候要因に影響されていると考えられるパターンを見つけました。本研究紹介の前半で書かせていただいたような生きものが好きかなどの人間と生物の関係もまた多様な関係が存在していて、様々な要因に駆動されているのだと思います。私たちも含めて、地球上で生物が相互作用しているのかを考えると面白く、研究したいことは尽きないです。

 今後も、既存の研究分野の枠組みに捕らわれることなく、自らの知的好奇心に従い、生物多様性のみならず、研究に邁進して参りたいと思います。