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【報告】第17回種生物学会片岡奨励賞 選考報告

お知らせ 2023年10月10日

第17回 種生物学会片岡奨励賞 選考報告

2023年10月10日

 選考委員会は,推薦のあった候補者の研究業績および種生物学会での活動について,慎重に調査・審査し,最終選考会議を9月29日に行いました。その結果,選考委員の全員一致で,以下の2名に片岡奨励賞を授与することを決定いたしました。なお授賞式と受賞講演は,12月2日(土)の種生物学シンポジウム会場にて行います。

永濱 藍(国立科学博物館)
望月 昂(東京大学)
 
片岡奨励賞選考委員: 川北 篤(委員長)・富松 裕・本庄 三恵・山尾 僚

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永濱 藍氏の受賞理由

  永濱藍氏は、さまざまな植物の展葉・開花・結実の時期や期間を詳細に解析することで、木本や草本などの生活型の違いとフェノロジーの関係を明らかにする独創的な研究を行ってきました。

 永濱氏は、植物の種間でフェノロジーを比較するためには、個体レベルのフェノロジーと種(または個体群)レベルのフェノロジーを区別して取り扱う必要がある点に着目し、⼀般的にフェノロジー解析で⽤いられる種の開花期間や個体の平均開花期間などの他に、群集⽣態学の解析⼿法を取り入れた個体間の同調性を表す指標や、フェノロジーの時空間的な分布を表す指標を⽤い、個体レベルと種レベルのフェノロジーを明確に区別しながら⽊本・多年草・⼀年草の間で⽐較を行いました。その結果、草本よりも⽊本の⽅が、個体間の開花が同調し、種レベルでの開花期間が短くなることや、個体の開花期間の平均は草本と⽊本で差がないことなどを明らかにしました(Nagahama & Yahara 2019)。⽊本の⽅が個体間の開花が同調し、種レベルでの開花期間が短くなることは、⽊本の⽅が他殖性が強いことと関係があると考えられます。

 さらに永濱氏は、植物のフェノロジー研究を熱帯⼭地林でも展開しています。植物の展葉・開花・結実フェノロジーを記録・解析する過程で、ベトナムのトウダイグサ科の一新種の記載(Nagahama et al. 2021)や、Langbiang⼭の植物図鑑の出版(Nagahama et al. 2019)を行い、これらを通して植物の種多様性が⾼く、分類学的研究が遅れている地域のフロラの解明にも貢献しました。

 種生物学会員としては、熱帯山地林の種多様性とフェノロジーに関するシンポジウム講演や、和文誌企画シンポジウムでのコメントを行い、2022年度には第 54 回種生物学シンポジウムの実行委員を務められました。

 以上の研究業績、および種生物学会での活動は片岡奨励賞の受賞にふさわしいものです。永濱氏の活躍は、種生物学を志す若手研究者を大きく鼓舞するものであり、今後のさらなる活躍が期待されます。

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望月 昂氏の受賞理由

  望月昂氏は、日本の野生植物でまだ送粉者が分かっていないさまざまな植物に着目し、野外での精力的な観察により送粉者を解明するとともに、それらの植物がもつ花形質の進化的背景を明らかにしてきました。

 被子植物では珍しい、暗い赤色の花をつける植物に着目した研究では、アオキやサワダツ、マルバノキなど57種の植物がいずれもキノコバエに送粉されることを見出しました(Mochizuki & Kawakita 2018)。さらに、暗い赤色の花をつける種と白い花をつける種の両方が含まれるニシキギ属において、送粉者と花形質を系統樹上で比較し、暗い赤色の花、短い花糸、匂い物質の一つであるアセトインの放出が、キノコバエによる送粉と関わりがあり、一連の花形質が送粉シンドロームであることを示しました(Mochizuki et al. 2023)。これらの研究から、キノコバエがこれまで考えられてきたよりも多くの被子植物の送粉者であること、そしてキノコバエが花色をはじめとする送粉シンドロームの進化に関わることを明らかにしました。

 望月氏はさらに、複雑な花構造をもち、花粉塊をつくることで知られるキョウチクトウ科ガガイモ亜科の送粉様式の解明に取り組んできました。南西諸島に分布するサクラランに着目した研究では、大型のガの脚に花粉塊がつくことで送粉が起こることを野外観察より明らかにし、ガの脚への花粉塊の脱着にはサクララン属特有の花構造が関わっている可能性があることを示しました(Mochizuki et al. 2017)。

 さらに、種生物学会員としては、2016年の和文誌企画シンポジウムでの講演をもとに種生物学研究第4041号合併号において2章にわたって執筆を行なったほか、2022年度からはPlant Species BiologyAssociate Editorを務めています。

 以上の研究業績、および種生物学会での活動は片岡奨励賞の受賞にふさわしいものです。望月氏の活躍は、種生物学を志す若手研究者に大きな刺激を与えるものであり、今後のさらなる活躍が期待されます。