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【報告】第19回種生物学会片岡奨励賞 選考報告

新着情報 2025年10月15日

19回 種生物学会片岡奨励賞 選考報告

 

20251014

 

 選考委員会は,推薦のあった候補者の研究業績および種生物学会での活動について,慎重に調査・審査し,最終選考会議を1014日に行いました。その結果,選考委員の全員一致で,以下の1名に片岡奨励賞を授与することを決定いたしました。なお,授賞式と受賞講演は121921日の種生物学シンポジウム会場にて行います。

 

勝原 光希(岡山大学)

 

片岡奨励賞選考委員: 川北 篤(委員長)・富松 裕・本庄 三恵・山尾 僚

 

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勝原 光希氏の受賞理由

 

 勝原光希氏は,ツユクサ属を中心とした植物の繁殖生態を詳細に観察し,繁殖システムの進化やその生態学的帰結を多角的なアプローチで解明してきました。

 ツユクサとケツユクサの繁殖干渉に関する研究では,両種の間で頻度依存的な繁殖干渉が生じており,蕾の段階で起こる先行自家受粉が繁殖干渉の影響を軽減すること,さらに両種の先行自家受粉率の違いが干渉の優劣を説明しうることを明らかにしました(Katsuhara & Ushimaru 2019)。また,集団遺伝学的手法により,ケツユクサは単独で生育する場合に比べ、ツユクサと共存することで近交係数や自殖率が高くなることを示しました(Katsuhara et al. 2024)。従来,繁殖干渉は近縁種間の競争排除を引き起こすと考えられていましたが,勝原氏は「先行自家受粉の進化が繁殖干渉下の多種共存を促進する」という仮説を立て,数理モデルを用いてその可能性を示しました(Katsuhara et al. 2021)。

 この他にも,勝原氏はツユクサにおける両性花と雄花の性的二型の意義(Murakami et al. 2022)や,コチャルメルソウの花弁が送粉者の足場として機能すること(Katsuhara et al. 2017)など,植物の形質の適応的意義に関する研究も行っています。近年では,人間活動と植物の繁殖生態の関係にも着目しており,例えば都市部のツユクサは山間部に比べて開花期が早いだけでなく,集団間の開花同調性が低く,都市の多様な微環境がフェノロジーの多様化を引き起こしうることを示しました(Fujiwara et al. 2025)。

 さらに,種生物学会員としても,シンポジウムでの積極的な発表,和文誌編集委員としての活動,和文誌シンポジウムの企画,第56回種生物学シンポジウム岡山大会の運営など,学会活動に大きく貢献しています。

 以上の研究実績,および種生物学会での活動は,片岡奨励賞の受賞にふさわしいものです。勝原氏の活躍は、生態学を志す若手研究者に大きな刺激を与えるものであり、今後のさらなる活躍が期待されます。